JP-2026514655-A - 補酵素Aによる生産物阻害が低減されたパントテン酸キナーゼの遺伝子を発現する微生物におけるビオチン生産
Abstract
本発明は、ビオチン、デスチオビオチン(DTB)又はそれらの混合物の製造方法に関し、該方法は、補酵素Aに対してフィードバック耐性であり、かつパントテン酸キナーゼの酵素活性(クラスEC 2.7.1.33のタンパク質の酵素活性)を有する、少なくとも1つの酵素を遺伝子組換え的に発現する微生物生産株を培養し、次いでビオチン若しくはDTB又はそれらの混合物を単離することを特徴とする。
Inventors
- プファラー,ルーペルト
- ゾマー,カリーナ
Assignees
- ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
Dates
- Publication Date
- 20260513
- Application Date
- 20231024
Claims (15)
- 補酵素Aに対してフィードバック耐性であり、かつパントテン酸キナーゼの酵素活性(クラスEC 2.7.1.33、CoaAのタンパク質の酵素活性)を有する、少なくとも1つの酵素を遺伝子組換え的に発現する微生物生産株を培養し、次いでビオチン、DTB又はそれらの混合物を単離することを特徴とする、ビオチン、デスチオビオチン(DTB)又はそれらの混合物の製造方法。
- 前記微生物生産株が細菌株であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
- 前記微生物生産株が、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)種、ラウルテラ・テリジェナ(Raoultella terrigena)種又はパントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)種の株であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
- 前記微生物生産株が、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)種の株であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
- 前記細胞を、発酵により工業的規模で培養することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
- 補酵素Aに対してフィードバック耐性であり、かつパントテン酸キナーゼの酵素活性を有する前記酵素を発現する遺伝子が、その野生型において補酵素Aによってフィードバック阻害されるCoaA酵素をコードする変異遺伝子であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
- 補酵素Aに対してフィードバック耐性であり、かつパントテン酸キナーゼの酵素活性を有する酵素を発現する前記変異遺伝子が、細菌遺伝子であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
- 補酵素Aに対してフィードバック耐性であり、かつパントテン酸キナーゼの酵素活性を有する酵素を発現する前記変異遺伝子が、エンテロバクター科(Enterobacteriaceae)由来の細菌遺伝子であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
- 補酵素Aに対してフィードバック耐性であり、かつパントテン酸キナーゼの酵素活性を有する酵素を発現する前記変異遺伝子が、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来のcoaA遺伝子であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
- 補酵素Aに対してフィードバック耐性であり、かつパントテン酸キナーゼの酵素活性を有する前記酵素が、配列番号4、配列番号6若しくは配列番号8のアミノ酸配列、又は少なくとも70%が同一であるアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
- 前記酵素が、配列番号4のアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項10に記載の方法。
- 発酵バッチ中のビオチンの含有量に対して、培養上清中のビオチンの含有量が70%超であることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
- 最大65時間の発酵時間の後、発酵終了時のビオチンの収量が少なくとも10mg/Lであることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
- 最大65時間の発酵時間の後、発酵終了時のDTBの収量が少なくとも10mg/Lであることを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
- DTBが生産され、生物変換においてビオチンに変換され、次いで該ビオチンが該生物変換反応から単離されることを特徴とする、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
Description
本発明は、ビオチン、デスチオビオチン(DTB)又はそれらの混合物を製造する方法を提供し、該方法は、補酵素Aに対してフィードバック耐性であり、かつパントテン酸キナーゼの酵素活性(クラスEC 2.7.1.33のタンパク質の酵素活性)を有する、少なくとも1つの酵素を遺伝子組換え的に発現する微生物生産株を培養し、次いでビオチン若しくはDTB又はそれらの混合物を単離することを特徴とする。 ビオチン(D-ビオチン、ビタミンB7、ビタミンH、CAS番号58-85-5)は、ビタミンB群に属する水溶性ビタミンである。補欠分子族として、それは細胞代謝において重要な役割を果たし、そこでカルボキシル化反応において本来不活性なCO2を活性化する。ビオチン依存性酵素の例としては、マロニル-CoA合成酵素、プロピオニル-CoAカルボキシラーゼ、ピルビン酸カルボキシラーゼ及びゲラニル-CoAカルボキシラーゼが挙げられる。ビオチンは、栄養補助食品及び飼料の添加物として、化粧品において、並びに製薬分野において、経済的に非常に重要なビタミンである。 デスチオビオチン(DTB、CAS番号533-48-2)は、ビオチンの生合成前駆体である。ビオチンは、DTBへの硫黄の酵素触媒による取り込みによって形成される。ビオチンの微生物生合成及びその生合成の調節は公知である(Sirithanakorn及びCronanによる総説、2021年、FEMS Microbiol.Rev.45巻:fuab003を参照)。微生物におけるビオチンの生合成は厳密に調節されており、その結果、機能的なビオチン生合成経路を有する野生型株ではビオチンを検出することができない(本発明の実施例も参照)。機能的なビオチン生合成経路の証拠は、野生型株がビオチンを添加しない最少培地(定義された無機塩培地)で増殖できるのに対し、該株のビオチン要求性変異体は同じ条件下では増殖できないという事実によって提供される。したがって、微生物におけるビオチン生産の検出の欠如は、それがビオチンを生産できないことを意味するのではなく、ビオチン生合成が厳密な調節を受けていること、及び微生物によって合成されたビオチンが関連する酵素に補因子として直ちに取り込まれ、遊離の形態ではないことを意味する。加えて、微生物は環境からビオチンを吸収することができ、例えば増殖培地からの十分なビオチン供給があった場合、微生物にとって代謝的にコストのかかるビオチン合成は完全に停止される。したがって、十分な外部供給がある場合、野生型株は自身のビオチンを生産しない。 ビオチン生合成の調節に関する先行技術は、Sirithanakorn及びCronanによって詳細に記載されている。微生物がその生存能力に必要なだけのビオチンを生産することを確実にするこのビオチン生合成の厳密な調節は、これまでビオチンを製造するための経済的に競争力のあるバイオテクノロジー的方法の開発を妨げてきた。 パントテン酸(ビタミンB5、R体についてはCAS番号79-83-4、ラセミ体についてはCAS番号5999-54-2、Ca塩についてはCAS番号137-08-6)は、補酵素A(CoA)の重要な生合成前駆体であり、CoAは代謝においてアシル基の活性化のために(例えば、クエン酸回路、脂肪酸合成又は脂肪酸酸化におけるアセチル-CoA、スクシニル-CoA又はマロニル-CoAとして)使用される。CoAの生合成は公知である(Leonardi及びJackowskiによる総説、2007年、EcoSal Plus、2巻を参照)。補酵素Aは、パントテン酸から5つの酵素段階を経て生産される。補酵素A生合成の第1段階である、パントテン酸のATP依存性リン酸化による4’-ホスホパントテン酸の形成は、式(1)に従って酵素パントテン酸キナーゼ(EC 2.7.1.33、CoaA、CoaA酵素又はPanKと称される)によって触媒される。 式(1): (R)-パントテン酸+ATP<=>(R)-4’-ホスホパントテン酸+ADP+H+ 細菌では3種類のCoaA酵素が知られている;Hongら(2006年)、Structure 14巻:1251~1261頁を参照。I型CoaAは、例えば、大腸菌(エシェリヒア・コリ(Escherichia coli))由来の酵素によって代表される。I型CoaAの活性は、補酵素A又はそのCoA-チオエステルによってフィードバック阻害される。II型CoaA酵素は、フィードバック阻害されない黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)酵素によって代表される。III型CoaA酵素は、同様にフィードバック阻害されない緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)酵素によって代表される。II型及びIII型CoaA酵素を有する微生物は、主として病原性細菌であり、その遺伝子は代謝工学において可能な限り避けるべきである。I型、II型又はIII型CoaA酵素がビオチン合成に影響を与えるかどうかに関するこれまでの研究はない。 大腸菌において、I型CoaAを代表する酵素パントテン酸キナーゼは、coaA遺伝子によってコードされる。CoaA酵素の活性は、生合成経路の最終産物である補酵素Aによって阻害される。したがって、補酵素AはCoaA酵素の阻害剤である。大腸菌のような微生物では、この形態の生産物阻害(フィードバック阻害)は多くの代謝経路に特徴的であり、微生物がその生物によって必要とされるだけの代謝物(この場合は補酵素A)を生産することを保証する。したがって、補酵素A生合成にとって、パントテン酸キナーゼが重要な酵素である。 大腸菌由来のCoaA酵素のタンパク質構造を調べることから、Rockら(2003年)、J.Bacteriol 185巻:3410~3415頁は、補酵素Aの結合に必須であり、したがって補酵素AによるCoaA酵素活性の阻害を媒介する3つのアミノ酸を同定している(Rockらにおける図2参照)。その3つのアミノ酸は、106位のアルギニン(R106)、177位のヒスチジン(H177)及び247位のフェニルアラニン(F247)である。別の補酵素A相互作用アミノ酸であるタンパク質配列の101位のリジンは、酵素活性に必須のATP基質の結合に関与しており、その変異は不活性な酵素をもたらす。 Rockらによる研究の目的は、補酵素Aによる酵素活性のフィードバック阻害が低減されたCoaA酵素の変異体を生産することであった。本発明において、「低減されたフィードバック阻害」という表現は、「増加したフィードバック耐性」という表現と同義的に使用される(フィードバック耐性はfbrと略される)。本発明において、補酵素Aに対してフィードバック耐性であるパントテン酸キナーゼの変異体は、したがって、CoaA酵素又はパントテン酸キナーゼのfbr変異体とも称される。 Rockらによる図4Aによれば、野生型CoaA酵素は、20μMの補酵素Aの存在下でのその酵素活性が、補酵素Aを全く添加しない野生型CoaA酵素の活性の約40%にのみ相当することを特徴とする。したがって、補酵素Aは野生型CoaA酵素の阻害剤である。いわゆる阻害剤定数IC50は、酵素の活性が阻害剤非存在下での活性の50%にすぎないときの阻害剤の濃度を示す。Rockらによる図4Aによれば、大腸菌由来のCoaA酵素のIC50は、したがって20μMの補酵素A未満である。 CoaA酵素の3つの点変異体、すなわちアミノ酸が変異したR106(fbr変異体CoaA[R106A])、H177(fbr変異体CoaA[H177Q])又はF247(fbr変異体CoaA[F247V])は、補酵素Aに対する生産物阻害の喪失によって区別された(Rockらにおける図2及び図4A参照)。fbr変異体は、その酵素的特性に関して特徴付けられた。フィードバック耐性CoaA変異体の過剰発現(補酵素A生合成経路の脱調節に相当)の生理学的効果の研究により、大腸菌細胞における4’-ホスホパンテテインや補酵素Aなどのリン酸化代謝物の蓄積が明らかになった(Rockらにおける図6)。したがって、Rockらによって研究されたのは、フィードバック耐性CoaA変異体の発現が、大腸菌における4-ホスホパンテテインや補酵素Aなどの様々なリン酸化パントテン酸由来代謝物の含有量にどのように影響するかであった。EP 3 269 819 B1は、O-アセチルホモセリンの生産にフィードバック耐性CoaA変異体を使用している。ビオチンの生産に関する研究は、Rockらによっても、EP 3 269 819 B1においても実施されなかった。補酵素Aとビオチンの代謝経路との間には、機構的な関連性はない。 ビオチンの商業的利用のために、この化合物は現在、化学的に生産されている。フマル酸から出発する13段階の合成が知られている。化学的に生産された成分を遠ざけるという消費者主導の傾向があるため、ビオチンを生産するためのバイオテクノロジー的方法は大きな関心を集めている。 ビオチン生産株を生産するための公知のバイオテクノロジー的アプローチ(Sirithanakorn及びCronanも参照)は、主として、ビオチンのための様々な生合成遺伝子、すなわち遺伝子bioA、bioB、bioC、bioD、bioF及びbioH、又はそれらの機能的に類似する遺伝子の組換え発現に焦点を当てている。さらに、ハイスループットスクリーニング(HTS)を用いて、変異誘発及び選択によってビオチン生産が改善された微生物株を単離した(Baliら、2020年、Metab.Eng.60巻:97~107頁)。 したがって、先行技術は、微生物生産からビオチンを得るための様々な代謝工学及びHTSアプローチを開示している。これらすべてのアプローチで達成された成功は限定的であったため、現在のところ、化学合成が、商業目的でビオチンを生産するための選択方法であり続けている。公知のバイオテクノロジー的アプローチがこれまで不適切であったことは、ビオチンの生産のためのバイオテクノロジー的方法を改善することができる新規な遺伝的要素の必要性があることを意味する。 欧州特許第3269819号明細書 Sirithanakorn and Cronan, 2021, FEMS Microbiol. Rev. 45: fuab003Leonardi and Jackowski, 2007, EcoSal Plus, 2Hong et al. (2006), Structure 14: 1251-1261Rock et al. (2003), J. Bacteriol 185: 3410-3415Bali et al., 2020, Metab. Eng. 60:97-107 先行技術から知られているように(上記参照)、本発明においても、未改変の野生型微生物は検出可能なビオチンを生産しないことが見出された(本発明の実施例5~7参照)。ビオチン及び生合成前駆体DTBは、細胞内でも細胞外でも検出できなかった(実施例8参照)。しかしながら、驚くべきことに、組換えフィードバック耐性coaA変異体の発現による補酵素A生合成経路の脱調節の結果として、微生物におけるビオチン生産が可能になることが見出された。このビオチン生合成経路の脱調節は、特に野生型微生物株が使用できないため、代謝工学によるビオチン生産のためのバイオテクノロジー的方法の開発にとって大きな関心事である。 生産株において遺伝子組換え的に発現され、補酵素Aに対してフィードバック耐性であり、かつパントテン酸キナーゼの酵素活性(クラスEC 2.7.1.33のタンパク質の酵素活性)を有する酵素を発現する遺伝子は、 1.補酵素Aによってフィードバック阻害されないCoaA酵素をコードする野生型遺伝子(例えば、II型又はIII型パントテン酸キナーゼをコード